「空から茹でたスパゲッティが降るらしい」歴史ある図書館に漂う、そんな奇妙で不条理な「うわさ」。登場人物である方向音痴の司書、柊 梢だけが、それが単なる戯言ではなく、自身の能力が見せる「未来の断片」と符合することに気づいていた。過去の喪失から得たその力は、うわさが図書館地下の「時間の書庫」から漏れ出す、未来からの劣化情報であることを告げる。
物語の核心は、この「未来のうわさ」が、情報の洪水や時間停止病といった、世界の根幹を揺るがす差し迫った危機を示唆していること。そして、過去の火災で失われた資料が、この危機を操る、あるいは防ぐための「時間のレシピ」の一部だった可能性。梢は、司書としての知識と、制御不能になりかける能力を駆使し、この不条理な謎と未来の危機に立ち向かう。
テーマは、情報と時間の性質、喪失からの再生、そして日常に潜む不条理の中での人間の適応力。結末では、未来の危機は完全に回避できたかは定かではないが、梢は情報の混沌を整理する術を体得し、不条理な世界を受け入れる。「図書館は続く」──迷子になりながらも、彼女は未来からのうわさと共に、司書として歩み続ける、奇妙で愛おしい物語。